安部公房の『砂の女』のサスペンスの考察

By 行く年来る年

 サスペンスという語を「物語中の危機が、読者に感じさせる不安、懸念、緊張感」など
と定義するならば、まず訳が分からないまま砂穴に閉じ込められることになる状況、この状況を想像するだけで大きな不安を覚えます。

 さらにそこに砂穴の状況に適応している不可思議な女という存在が、不安感、懸念感を増大させます。
この場合女も主人公同様に砂穴に閉じ込められていることに脅えを感じでいるのならば、それほどサスペンスではないのです。
常人の感覚では不安がり、脅える場面で、平然と異常な現実に適応している女が存在することで、読者の不可思議感、不安感は増大するのです。

 さらにより一般的な感覚でサスペンスを感じるのは、やはり砂穴から脱出しようといろいろ試みる場面だと思います。
果たして主人公は脱出することができるのか? この構成は王道ながら読者に適度の緊張感をもってサスペンスを伝えます。
ピークは一時砂穴から脱出してまた捕まるまでの場面です。
部落の人間にいつ見つかるか、いつ見つかるかという切迫した緊張感が存分に描かれています。
そしてそれらの試みが最終的に無に帰するあたりが、読者の想像をうまく超えてくれて面白い点であります。

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